研究テーマの例

風土条件を反映した重要伝統的建造物群保存地区及び周辺地域の景観保全に関する研究

 伝統的建造物群保存地区制度は地域固有の歴史的な集落の町並みを対象とした生活環境としての歴史的景観保全制度であり、2015年7月現在までに、全国で110地区が重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。
 その一方で、実際の景観形成を行う上では、重伝建地区という限られた範囲における歴史的景観保全の施策のみでは、周辺地域の景観を保全することが難しく、周辺に市街地の広がる地区においては、周辺地域に中高層の建物が建設されるなどの事例も見られます。また、重伝建地区の中には周辺地域に山や海等の自然環境が存在し、周辺地域の地形条件や気候条件等の風土条件と密接に関係しながら歴史的景観を形成している地区も多くあります。このため、実際の景観形成を行う上では、重伝建地区という限られた範囲における歴史的景観保全の施策のみではなく、風土条件を考慮しながら周辺地域の景観を保全することが重要です。
 この研究では、重伝建地区とその周辺地域を対象に、その風土条件を考慮することにより、重伝建地区と周辺地域の市街地(農地)や自然環境との連続性を保ちながら、市町村全域の中で重伝建地区を位置付け、より広域にわたって歴史・文化を活かしたまちづくりの方針を提案することを目的としています。

景観重点地区における南海トラフ地震後の災害復興計画に関する研究

 2004年の景観法制定以降、歴史的町並み等を活かしたまちづくりへの取り組みが各地で見直され始めており、景観行政団体は、「景観法」に基づく景観計画において、区域内の景観形成を重点的に図る地区として景観重点地区等に指定し、市街地景観の保全・整備を進める動きが生まれています。
 先の東日本大震災では、人的被害だけでなく、歴史・文化的に価値のある建造物等も甚大な被害を受けました。景観重点地区は海や川に面する地区も多く、巨大地震などの自然災害が発生した場合に、大きな揺れの他に津波や地盤の液状化、火災、斜面崩壊・地滑り等、様々な被害が想定されます。しかし、景観法や関連法(文化財保護法等)においては防災対策に関する総合的な規定は限定的であるため、近年発生が懸念されている南海トラフ地震等への対応は未だ十分ではありません。そのため、その対応を検討することが喫緊の課題の一つとなっています。
 自然災害から景観重点地区の良好な景観や歴史・文化的に価値のある建造物等を守るためには、日常時から自然災害を被害想定を踏まえた災害対策に取り組むとともに、災害後の復興方針・復興計画について事前に検討しておくことが重要です。なお、本研究における自然災害とは、主に南海トラフ巨大地震を対象としています。

 

応急仮設住宅の建設候補地選定ガイドラインの検討

 東日本大震災の復興過程においては、日常時における事前対策等が不十分であったために様々な問題が発生しました。その中の1つに、応急仮設住宅の供給の遅れが上げられます。数多くの応急仮設住宅を建設するために広大な建設用地が必要となりましたが、日常時における候補地選定が十分に準備されていなかったためにその確保が難航し、その結果、応急仮設住宅の供給が遅れてしまいました。
 本ガイドラインは、阪神・淡路大震災や東日本大震災の教訓を踏まえて、南海トラフ地震に備える三重県において、応急仮設住宅の建設に関する計画策定のための一連のプロセスとその内容を解説し、震災復興の事前準備に向けて活用して頂くことを目的としています。

歴史的市街地における建築物の修景事業に対する助成制度の研究

 歴史的市街地における町並み保全は、文化財保護法に基づく伝統的建造物群保存地区の制度による取り組みが全国的に進められてきました その後、平成16年に「景観法」が制定され、現在では多くの地方公共団体では総合的な景観まちづくりが可能になり、歴史的市街地の町並み保全についても景観法を活用して展開できるようになりました。
 この研究では、今後、景観計画にもとづき保全活用の事例が増えていくと考えられる歴史的市街地の建築物の修景事業に対する助成制度の運用状況や運用上の課題を抽出しその課題解決に向けた助成制度の枠組みの提案に取り組んでいます。また、その課題解決の一つの手法として、歴史的市街地における建築物の助成基準への適合状況を把握するための建築物の評価手法の検討も進めています。